エルール・ロックスレイヤー（Errur Rockslayer）

１、はじまりの灰色に

生とはただ死を迎えるまで続く苦役であり
およそ世に存在する価値あるものは
本来それを与えられるはずだった自分たちから奪われたものである――
アンダーダークのワルトロード城砦で生まれ育ったエルール・ロックスレイヤーにとってドゥエルガル社会におけるその規範は何ら疑う余地のない常識そのものであった。長じてからは兵士として従軍し、また鍛冶師として工房での仕事に携わる日々の中で、しかしただひとつだけ理屈で割り切れないひとつの衝動が彼の中にあった。ドワーフとしてのご多分に漏れずドゥエルガルも製作によく勤しむが、その製作物は装飾を徹底して廃した実用一辺倒のものである。不必要な飾りをつけるくらいなら一本でも多くの武器を、１人でも多くの敵を殺せる鋭さを。しかしエルールの中には確かにそれとは異なる衝動があった。きれいなもの、美しいもの、技を凝らしたものを作り上げたい…
もちろんそのようなことが許されるはずもない。一度、気まぐれに拙いながらも装飾を入れた武具を作製した時には手酷い懲罰を受けたものだった。以来、エルールは自分の中のそれを固く内に秘したまま、淡々と、色のない世界を生きてきたのだった。

２、運命は交わりて

シールド・ドワーフの大拠点ブロウデンの名前をこの一帯で知らぬ者は少ない。実のところドワーフ社会について詳しくない者は"ブロウデン"をそういう名前の国だと思い込んでいることもあるという程度にこの大規模な共同体は今もなお勢力を誇っており、そのことは地理的にそこまで距離が隔たれていないワルトロード城砦にとっては直接的な脅威というほどではないにしても、常に目障りな相手であるということも意味していた。
いつもの（何度目かの）ごくありふれた偵察任務の遠征隊にエルールが派遣され、そして運悪く彼らはその日ブロウデンの勢力圏内の警戒網に引っかかり、襲撃を受けた。いかにドゥエルガルの部隊といえど衆寡敵せず。部隊は壊滅し、エルールも戦いの中で打ち倒されて死を覚悟した。
『これでこの無意味な生もおしまいか。』
どこか他人事めいた冷ややかな諦観の中で、ふと炉の残り火のようにかすかに瞬くものがあった。せめて一太刀、自分が生きた証をこいつらに刻んでやる。地に伏したままエルールは懐に隠した"得物"に手を伸ばすが…
「おいっ、こいつまだ武器を！」
槍の柄が打ち付けられ、エルールの握った手斧は叩き落されてからりと地面に転がった。
「抜け目のないやつめ、今とどめを刺してやる。」
兵士は槍を返し、切っ先をエルールに向けた。とその時、ブロウデンの手勢の中の１人が地面のそれを見とがめた。
（はて、ドゥエルガルの所持品にしては、拙いながらも意匠が施されている…）
年かさのその男は片手で兵を制すると、
「おい、こいつをどこで拾った？」
手斧を拾い上げながらエルールに問うた。
「拾ってなどいない… 俺が作った、俺のものだ」
その返答は男の気を引くのに十分なものだった。白いものがいくつも混じったのひげの下で、彼はかすかに口元に笑みを浮かべた。
「こいつは殺すな。連れて帰るぞ。」
「！？グランデルどの、一体何を？」
「聞こえなかったのか？この小僧はわしが連れて帰る。」
グランデルと呼ばれた年かさのドワーフは気難しげにそう兵士に言い捨てながら短剣を懐にしまった。ドゥエルガルにしてはこいつは変わっている。どこか彼の直感を刺激するものがあった。そしてたいていの場合、彼は自分の直感に従うことが"全ての父"の意思に沿うことになると長年の経験で心得ていたのだ。そんな馬鹿な、と兵士は鼻白んだが、しかし相手は何と言ってもブロウデンの"十二鎚"の１人、グランデル・ブリッツストーンである。立場もさることながら、一度こうだと言い出したら聞き分けることなどない頑固さでも有名な変わり者のこの男にこの場で食い下がるのは無駄というもの。一も二もなく、兵士はひとまずドゥエルガルを縛り上げると、ブロウデンへの帰途へと伴うことになったのだった。

３、炉の音、胸を打ち

捕虜を伴いブロウデンへと帰還した警備部隊であったが、このことは少なからぬ波乱を呼んだ。何しろドゥエルガルといえば捕虜として連れ帰ったところでまずろくな情報にもならぬ上に、いたずらに危険を壁の中へと持ち込むも同然。これまでには例のないことである。加えてさらに、
「あいつはわしが預かる。」
グランデル・ブリッツストーンが――このモラディンに仕える高位の戦司祭にしてブロウデンの鍛冶場の一つを監督する総親方である老練のドワーフがそう言い出した時には『またブリッツストーンのご当代の気まぐれが始まった…』それだけでは済まない反発が統治議会の中で巻き起こった。
「しかし奴は忌まわしいドゥエルガルだ！そもそもが生きたままここへ連れ帰るなど言語道断、この上にさらに処刑もせずに身柄を引き取ると！？」
半日以上に渡る喧々囂々としたやり取りの後に、最終的には何か問題が起きた時にはグランデルが全ての責任を取る上に、もし不適当だと判断された時には直ちに捕虜を"処分"するという同意の元どうにかこの議論は決着がついた。

「こいつはお前さんが作ったと言ったな？」
グランデルは手斧をぽんぽんと手の中で玩びながら、鉄格子を挟んだ牢の中につながれた捕虜に尋ねた。
「なぜじゃ？」
理由などない。ただそうしたいと思ったからそうした。
ドゥエルガルのその答えに、グランデルは胸の内でほくそ笑んだ。
「もっと作りたいと思うか？」
もうどうでもいい。さっさと殺せ。
陰気にそう吐き捨てる捕虜を、グランデルは手枷首枷をはめたまま牢から引きずるように連れ出した。

そこはブロウデンの鍛冶場（正確にはそのうちのひとつ）だった。カンカンとひっきりなしに打ち鳴らされる鉄床と鎚の音、ごうごうと命の火を唸らせる炉、そして時折ひびく熱せられた鉄を冷ます水が蒸発するジュワッという独特の鋭い音。エルールは、まるで生命が脈打つかのようなその生き生きとしたありさまに、おのれの今の境遇も忘れてすっかり見とれてしまった。その様子を見てグランデルはにやりと笑みを浮かべ、もう一度問いを口にした。
「どうじゃ、もっと作りたいと思うか？」
ドゥエルガルはその質問を受けて顔を背けるが、しかし胸のうちで高鳴る鼓動は、もう彼には否定し難いものとなっていた。
「…作りたい………だが俺は、もう……」
首枷をはめたままうつむき、絞り出すようにエルールは言葉を紡ぐ。
「ふん！」
グランデルの荒っぽい鼻息がその言葉に割り込んだ。彼は金床のそばに置かれていたちょうど出来上がったばかりの真新しい小ぶりの斧を拾い上げると、捕虜に向けてそれを振り上げる。エルールは最期の瞬間に備えて思わず目をつむったが、振り下ろされた斧の刃はがこんと鈍い音を立てて彼の首枷を真っ二つにへし割った。
「よく言った！」
老ドワーフは呵々大笑した。
「このブリッツストーン氏族の長にして"ソンリノール（*"石を細工する者"程度の意。モラディンの司祭のこと）"なるグランデルの名において、鍛冶場に立たんとする意思を妨げるやからは、この斧が黙らせてやろう！」
エルールは呆気に取られてこの口上を聞いていたが、とにかく少なくともどうやら自分はまだ生き長らえることができたということと、そしてもしかすると鍛冶場に立っても良いらしいということを、ゆっくりと理解し始めていた。打ち鳴らされる鎚の音のたびに、彼の鼓動もまた高鳴っていた。

４、生まれ出づるは新たな縁（えにし）

こうしてグランデル・ブリッツストーンの預かりとなったエルールは実質的に鍛冶職人見習いとして彼に弟子入りをすることになった。もともとの鍛冶の基礎は叩き込まれている上に、生来の生真面目さ、そして何よりずっと隠し続けてきたおのれの内に脈打つ衝動をもはや秘める必要はないという事実。そこから生まれる情熱という原動力。初めのうちはぎこちない態度ではあったが次第にエルールは打ち解けていき、そうして鍛冶の腕もめきめきと上達していった。
同時に自分自身の腕が上がることによって、エルールはグランデル師の腕前がいかに素晴らしいものであるかということも理解できるようになり、それは師への純粋な尊敬の念を生んだ。
ブロウデンへ来てから数年が経過した頃、グランデルは師に願い出て正式にモラディンの神官としての道をも歩み始めることを選んだ。当然のことながら反対する者も少なからずいたが、今回もグランデルきっての後援に加えて、エルール自身のここ数年の仕事が少しずつながらも周りに認められ始めたという事実も彼の入信を認める流れを後押しした。

グロウザー・カルトハンマーは、当初エルールの世話役を務めていたドワーフだった。彼はその名の通りブロウデン"十二鎚"のひとつカルトハンマー氏族に連なる者であり、実のところ有望な氏族長の後継者のひとりであった。ブロウデンの中でも主流に属するカルトハンマーの一員でありながら、彼は昔から"変わり者"であるブリッツストーン氏族の長グランデルをたいそう敬慕していた。むしろ主流として伝統と格式に特に強く影響を受ける環境で生まれ育ったていたからこそ、グランデルの型破りとも言える奔放さと剛直さに彼は強く惹かれたのかも知れない。もちろん、自身も鍛冶職人見習いとしての修練をする中で職工としてグランデルの仕事を尊敬もしていた。何かと理由をつけてはブリッツストーンの鍛冶場に出入りし、グランデルが鎚を振るう姿を憧れの目で見つめながらも、なかなかそこから踏み出せず、そうこうしているうちにある時、妙なドゥエルガルの捕虜をグランデルが連れ帰ってきた。いくばくかの戸惑いはあったものの、「監視役として」というのはグロウザーがここに出入りするためのうってつけの理由になった。
この風変わりなドゥエルガルと日常的に接していく内に、グロウザーは彼とも打ち解け、親しく話の一つもするような仲にまでなったが、しかし同時にグロウザーは、グランデルがこのドゥエルガルの弟子を見る時、その瞳に厳しさだけではなく優しさまでもが含まれていることを見出し、そのことは次第に彼の胸の奥に何か黒い情念を積もらせていった。そして決定的な時が訪れるまで、彼はそのことを自覚できなかった。

５、裁きの雷、鳴り響き

"炉を穢した"という大罪にエルールが問われることになったのは、彼がブロウデンでモラディンに仕えるようになってから間もない頃のことだった。もちろんエルールにも覚えはなく、またグランデルも当然ながら彼の潔白を主張した。しかしそもそもがドゥエルガルの身。加えて先のモラディン寺院への入信について反対した者たちも、ここぞとばかりに彼を弾劾した。
「お前は知っているだろう、グロウザー…！俺は……」
エルールの声は、しかし虚しくも裏切られた。彼の世話役を数年来務めていたグロウザー・カルトハンマーの証言は決定的な証拠となった。
手足を鎖で縛られ、エルールは大衆の眼前にて、モラディンの名のもとに裁きの鉄槌が降されることとなった。ついに彼の首を落とすべく、斧が高々とかかげられたその時、突然大広間が一瞬の暗がりに満たされ、雷の音が轟いた。
『―――これなるは我がしもべなり―――』『―――まこと咎ありし者、その眼（まなこ）にて贖うべし―――』
轟音の中、かなとこが打ち鳴らされる音にも似て、その言葉はその場にいたドワーフたち全員の耳に響いた。同時にがちんと音を立ててエルールを縛っていた鎖が弾け飛び、そして破片がグロウザーの片目を打った。
「ウッ……！？」視界の半分が一瞬赤く染まり、そして激痛とともに光が失われていく。
不思議な暗がりが晴れた時、人々はその場で起きたことを知った。そして自分たちの過ちを悟り、同時に真に罪を犯した者が誰であるかを悟った。

「何故だ、グロウザー……！お前は俺の持っていないものを全て持っていたのに……」
後ろ暗い自分には決して手に入らない日向に生まれたドワーフとしての名誉も、望めば何でも手に入るであろう輝かしい将来も。
エルールは――今やブロウデンの誰もが彼が"全ての父"に認められた祝福受けし者だと疑っていなかった――グロウザーに最後に問いかけた。グロウザーは、残された片方の目にただ憎しみだけを込めてエルールを睨みつけた。
「だが、本当に欲しかったものは、貴様が奪っていったのだ、薄汚い黒い盗っ人め！！」

こうしてグロウザーはその身分を剥奪され、ブロウデンから追放の刑となった。

６、黒き運命の御子は旅立つ

グロウザー・カルトハンマーの事件から数ヶ月が経過したが、エルールの心にはグロウザーの最後の言葉が棘となって反響していた。
結局のところ、これは自分が招いたことなのかも知れない。ブロウデンへ来てからの数年は彼にとって本当に幸福な日々だった。しかし果たして自分は本当にそれに値するのだろうか？ "全ての父"はいったい自分に何を望んでいるのだろうか？
「駄目じゃな。まるで話にならん。」グランデル師はその日もエルールの作った剣を手に取って眺め回したあと、ぽいと投げ捨てた。エルールの中の迷いが表れていることは明らかだった。
ついに迷いを晴らし、答えを見つけるために外の世界へ旅に出ることをエルールが師に願い出ようとしたのと、グランデルがそっくりそのまま同じことを弟子に言い付けようとしたのは、実のところ全く同じタイミングとなった。グランデル師は出会った頃に比べるとすっかり"ドワーフらしくなった"愛弟子を見て優しく微笑み、そして自身の作った盾を餞別として持たせるとエルールを送り出した。こうしてエルールの探求の旅は始まったのである。

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■エルールが使用する魔法の炎の長剣（フレイム・タン）は、彼が仲間たちとの冒険の中、とあるドワーフの廃寺院を穢していたオーク部族を掃討した際に拾得したものである。寺院はドワーフの戦女神、"ラックメイデン"の二つ名を持つハイラ・ブライトアクスに捧げられたものであった。ハイラ自身は魔法の炎をまとった大剣を使用すると言われており、この宝剣の名"ヴェルドレダ・ボルナストリ"、共通語に訳すならば"戦乙女のかんざし"程度の名はさしずめそのミニチュア版といった意味合いなのかも知れない。

モラディンの司祭といえば専ら戦鎚を使用することが多いが、エルールはドゥエルガルとしての生まれつきの実利主義（使えるものは使う）と、加えて彼自身がモラディンの正道を堂々と歩むには"道を少し外れた"者であるという自負からこれを自分の愛剣として振るっている。

タグ不死鳥美食少女会　闇に誘う赤い霧
キャラクター名エルール・ロックスレイヤー（Errur Rockslayer）		属性秩序にして中立(LN)		プレイヤー名 Manbo	最終更新 2022/07/15 04:49
クラスファイター6・クレリック5	レベル 11	経験値 -		神格モラディン
種族ドワーフ（グレイ・ドワーフ）	サイズ中型	年齢 65	性別 ♂	身長 4'1"　124.46cm	体重 156lb.　70.82kg
パーティ・所属【闇に誘う赤い霧】
メモ欄


呪文 SPELLS

呪文発動クラス SPELLCASTING CLASS	クレリック	呪文発動能力値 SPELLCASTING ABILITY	【判】	対呪文セーヴ難易度 SPELLSAVE DC	14	呪文攻撃ボーナス SPELLATTACK BONUS	+7