ゲームライターという職種は、厳しい試験とか審査を通過してなりましたというものじゃなく、想像よりぼんやりとしたまま編集部から依頼を受けるようになった人は意外なくらい多い。ライターは副業としており、本業を別に持っている人も多い。むしろ、副業にとどめておいたほうが幸福に仕事できる可能性があるのは確かだ。


ではこの不安定な職種を本業にするのはどういう人間か？というと、実のところ「ライターになるための夢をかなえた」みたいな明るいキャリアと対極にある。だいたい、この職業はどう考えても「夢を叶える」ことと遠いところにある。職業として要求されるものは 極論すれば“ある知識を元にした、情報の整理”とも言えるので、そこは物流で商品をカテゴリごとに仕分けていく作業と相違ないとすら言える。

そんなテキストによる情報の仕分け作業（しかも企業による社会保障は存在しない）を本業にする人間とはこれだと確定できないものの、ひとつ答えにあるのは「自分に何ができないか」という取捨選択の連続でたどり着いた結果ということだ。

窪田は幼少時代から「何ができないか」の問う連続だった。明日やその先を考えることが多かった。病弱で幼稚園や小学校も出席が困難になり、家の布団のなかで天井を見つめながら「自分に何ができるのか」と極めてネガティブな意味で問い続けた。

メディアで見かける有名なスポーツ選手だとかヒップスターだとかいずれもその人々のようになる道はまったく見えず、あらゆる華やかな人々は「私には彼らのような人生は選択肢に存在しない」ということだけを窪田に付きつける存在だった。

窪田は小学生の頃に職業一覧がまとまった本をもらったことがあるが、ある時、本を読みながら「ここに自分の道はないであろう」と思った職業の文字列の上に赤線を引いていくことを思いついた。本を読みながら線を引く作業を始めていった結果、すべての職業に赤線が引かれることとなった。ここには自分が進む道がどこにもない、自分には何ができないか、調べた結果何もできないことがわかった。窪田は呆然としながら本を閉じ、視界の端に羽虫がいるのを見つけ、虫にめがけて本を叩きつけた。野球選手が描かれた表紙の顔の部分に放射線状に虫の死体が広がった本を窪田は部屋の端に投げ捨てて二度と読むことはなかったのである。

中学校に上がるころ、さすがに自宅でも勉強できたりしないかと父親が8万円台のデスクトップパソコンを買い与えた。窪田はそれを使って勉強をやるわけはなく、SNSだとか無駄な時間に費やしていく。もっとも無駄な時間を費やすことになったのはフリーゲームだった。学生で金が全くない時、一定のスペックを持つゲームを安価で遊ぼうとしたときの選択肢はそうならざるを得なかった。「何かができる」ことを体験させるメディアであるビデオゲームに対しても、窪田は「何ができないか」から選択せざるを得なかったのである。そんなフリーゲームのなかでももっともやりこんだのは「Elona」だった。このゲームはいろんなゲームプレイを可能としており、中学を卒業するまで何度もさまざまなバリエーションのゲームプレイを見つけてゲームプレイを続けた。

「Elona」の攻略方法などをネットで調べたりするうちに、テキストサイトだとか、ブログだとか、匿名掲示板だとかの情報も見るようになった。そのすべてが別にいいものではなかったが、それらに書かれた「Elona」に関連しただろうゲーム、影響を受けただろうゲームに興味を持った。RPGにもいろいろなジャンルや表現の広がりがあることをそこで知った。

体調がある程度良くなり、高校に進学したあと、ほんの少し自由になったお金でネットで知った「Elona」絡みのビデオゲームを買っていった。やがてSteamを導入し、英語圏のはるか昔の「Fallout」などもDLで購入したりもするようになっていった。以前、体調を崩して高校を通うのも難しくなるが、窪田はなにがあって「Elona」が「Elona」にたどり着いたのかを丹念に追う道を追いかけながら、自分でも「Elona」に届く道みたいな文章を残すようになりながら、やがて自分に「とりあえず文章を書くことはできるんじゃないか」ということに気づく。

やがて20歳になったころ、ゲームメディアによるライターの募集に応募し、そこそこの日本や英語圏、商業やフリーゲームでのRPGの知識をベースにメディアから案件をもらっていくようになる。……といっても、依頼原稿は月に3つくらいであり、とてもではないが一人で生活できるほどの報酬はもらえていない。依然、病弱なのは変わらず、取材仕事などを断ることが少なくないのだが、窪田自身が確信しているのは「自分に何ができないか、なにができたか」という選択の連続の極地がここにあるということである。現在、窪田は実家にてライターの案件を受けながら、報酬をそれなりに貯金しながら過ごしている。そして最近は体調を安定させてゲーム試遊の取材などもできるようになっている。月の平均収入は4．6万円。これもまた「ゲームライターを本業としている人間」の一部である。

10代のころに大病を患い、さまざまなことにブランクがあるゆえか定かではないが、常に表情が薄い。髪型も坊主一本で通しているため、直立で人を待っているときの姿を遠くで見るとマネキンが立っているように見える。

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